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2016-09-06

「世界料理学会 in ARITA」 開催レポート

文=福地真紀子 写真=水田秀樹、菊池裕太

ゴールデンウィークの真っただ中、5月3、4日に佐賀県有田町で「世界料理学会in ARITA」が開催された。

初日はあいにくの雨だったが、満席の会場でオープニングがスタート。ステージには総合ディレクターを務めた日本料理「六雁」の秋山能久氏や、「世界料理学会in HAKODATE」の仕掛け人である深谷宏治氏などが登壇。

総合ディレクターとして3年前から準備を進めてきた秋山シェフは、「器と料理は、互いになくてはならない関係です。有田焼創業400年という節目の年に、有田で初めて開催される世界料理学会は、料理人と窯元が互いに技と知識をぶつけあい、新しい世界をつくることに挑戦しています」とあいさつ。

今回、名誉顧問として学会をサポートした深谷シェフは、「日本料理が世界に向けて発信されるなか、セレブの間では箸を使うことが常識になってきた。海外で有田焼が飾り皿として使われてきたのは、ナイフとフォークの文化ではせっかくの絵付が傷ついしまうから。箸を使う時代がきたということは、有田焼を実用的な皿として生かせる時代がやってきたということでもあり、新しいマリアージュを提案することができます」と語った。

オープニングの最後には、今をときめく国内外のトップシェフたちがステージに勢ぞろい。「エイエイオー」の力強い掛け声とともに世界料理学会in ARITAが幕を開けた。

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器と料理の新たな可能性を探る2日間

そもそも、世界料理学会とは何なのか。“学会”と聞いただけで、専門的で堅いイメージを持ってしまうが、実はプロの料理人や関係者だけでなく、一般の方も参加できるというオープンな学会。料理人たちが独自の料理論や哲学、手法などを惜しげもなく披露するプレゼンテーションでは、映像などを交えて分かりやすく紹介してくれるので、一般の参加者にも興味深い内容になっている。

2009年から北海道・函館で開催されている「世界料理学会」を、有田町で開催することになったのは、今年が有田焼創業400年という記念イヤーにあたるからだ。佐賀県では、一流の料理人をはじめ、料理業界の関係者と連携し、次世代を担う人材育成を図りながら、プロの料理人が使う食器(プロユース食器)を開発することで、有田焼の新たな需要を喚起・拡大する「プロユースプロジェクト」を展開し、そのプロジェクトの一環として企画された。
言うまでもないが、器と料理は互いを支え合い、引き立て合う存在だ。器は料理をより美しくみせ、料理が盛られた器はより生き生きとした輝きを放つ。だからこそ、一流の料理人たちと、器の創り手である有田焼の職人が交流することで、器と料理の新しい可能性を探り、新たな価値を創造しようというのが今回の目的である。

学会のテーマに掲げたのは「器と料理のマリアージュ」。2日間を通して、13人の料理人たちが自らの料理哲学や器に対する考え方など、それぞれの視点からプレゼンテーションを行うとともに、“挑戦状”と題し、有田焼職人と料理人が互いの力量をぶつけあう企画も行われた。

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“挑戦状”を受けた有田焼職人と料理人

「料理人からの挑戦状」は、料理人が欲しい器を有田焼の職人が具現化する企画で、8人の料理人が窯元と1対1でタッグを組み、全8点のコラボレーション食器を発表した。

器に求める大まかなイメージは伝えつつ、最終的には窯元の感性に任せた作品もあれば、綿密なやりとりを繰り返し、小さな妥協も許さず完成させた器も。それぞれに違った魅力を醸し出す、それぞれに物語のある器が誕生した。

Restaurant MASA UEKIの植木将仁氏がリクエストしたのは、自身の故郷である石川県を代表する景観「能登半島の棚田の夕映え」をテーマにした器。
「人工的な器に自然の風景を映したら、どういう形になるか見てみたかった」と植木シェフ。コラボレーションした窯元は吉右ヱ門窯の原田吉泰氏で、最初は互いにイメージする棚田の風景が違っていて、かなり苦労したようだ。「有田の棚田を参考にしていましたが、実は西日本と北陸地方では棚田のつくり方が違っていて、イメージを共有するまでが大変だった。皿ではなく、景色をつくっているんだという考えにシフトしたことで、どんどんアイデアも出て来た」と原田氏。

日本料理龍吟の山本征治氏は、「依頼を受けたとき、“できるだけ無理難題を言ってください”と言われ、料理人からの挑戦状というより、どれだけ難しい注文を君たち(料理人)は出せるのか、という挑戦状を逆にもらったような気分だった」と振り返る。これならどうだ!と山本シェフがリクエストしたのは、リアルさを追求した蟹の器。山本シェフから本物の甲羅が送られてきた、コラボ相手の安楽窯・末村安孝氏は、見事なまでに本物の蟹を再現してみせた。

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もう一つは、「有田焼職人からの挑戦状」で、雨をテーマにしたオリジナルの器に、23名の料理人が自由に料理を盛り付け、来場者の人気投票で順位を決めるというもの。水面に雨水が落ちた情景をイメージした皿は、いくつもの穴が開いた斬新なデザイン。「盛り付けられるもんなら、盛り付けてみろ!」と言わんばかりの挑戦状だ。

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人気投票で1位を獲得したのは、髙澤義明シェフの「レイニーブルー」

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至極の一皿を堪能「ARITA-バル」

一般参加者が最も楽しみにしていたのが、トップシェフたちの至極の一品料理を堪能できる「ARITA-バル」だ。
ミシュラン3つ星店をはじめ、和食、中華、フレンチ、イタリアンなど19人のシェフが、この日のために特別料理を用意。会場はチケット制のバルスタイルで、チケット1枚でお好みの一皿を購入。前売りなら5枚つづりで2500円なので、有名シェフの一品料理が500円で食べられることになる。

前菜からデザートまで、フルコース風にメニューを選ぶ方もいれば、家族や仲間とシェアしながら全てを制覇した方も。隣で食べている人の料理が気になって話しかけたら、自然と会話が弾んだというテーブルも多かっただろう。食べて飲んで、気軽におしゃべりするバルスタイルが、さらに料理を美味しくしてくれた。

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六雁 秋山能久シェフ 「季節野菜の煮こごり」

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モルソー 秋元さくらシェフ 「スパイシースペアリブ」

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麻布長江 田村亮介シェフ 「麻婆豆腐」

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Patisserie STOVE 齋藤毅シェフ 「プチフール3種」

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ブースの奥はオープンキッチンになっていて、専門学校の学生や地元の飲食店の皆さんが調理スタッフとしてサポートしていたのも印象的だった。佐賀にいながら、トップシェフの盛り付けや料理イメージを間近で体感できたことは、彼らにとって将来につながる貴重な経験になっただろう。

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これからの地域づくりのヒントに

有田焼には、400年の歴史が紡いだ伝統と確かな技術、時代とともに革新を続けてきた職人たちがいる。数ある地域資源のなかで、世界に通用するブランドとしてこれほど高いポテンシャルを秘めたものはないだろう。しかし、単純に器をつくるだけでは、産業として発展し続けることはできない。有田焼の本当の良さを共感してもらえるファンを増やし、ファンが求める商品を作り続ける“循環”が生み出されてこそ、有田焼は未来につながっていくのだ。

有田焼の本当の良さを共感してもらうには、これまでとは違ったフィルターを通して、魅力を顕在化させるのも一つの手だ。今回の世界料理学会がまさにそれで、食を通じてあらゆる側面から有田焼と向き合ったことで、新たな魅力や可能性が引き出された。何より、有田焼が一流の料理人たちから“愛される器”であることを発信できたことも大きかった。

最後に、今回の学会が単なるイベントで終わるのではなく、今後の地域づくりにつながっていくことを忘れてはならない。普段出会うことのない一流シェフとの出会いが刺激となり、学会を通じて芽生えた交流を地域づくりに生かす動きも始まっている。地域を巻き込んだ世界料理学会が、佐賀県の地域活性の在り方を変えていくモデルケースとして活用されることを大いに期待している。

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